72/133 日照権闘争
柏木暁
1968年
オープンした
私の記憶では
ピンキーとキラーズが
工事中のビルのどこかで
恋の季節を
歌っていた
同時に
松本零士の漫画を
思い出した
主人公が街に出で
病気の妹のために
生きた花を探すというストーリーだ
時代はずっと先で
高層ビルだらけになった街の
下に住む人たちに
太陽の日差しは当たらず
街はいつも湿気を帯びて
薄暗い
本物の花は
超高級品で手に入らないのだが
主人公は妹のために
高層ビル群が突き出して
小さくなった空を見上げながら
ビルとビルの間をさまよい
やがて
一輪の花が建物の壁に
咲いているのを見つけ
取りに登り
茎を折った瞬間に
滑り落ちるというものだった
こんな風になるのかなあと
漠とした不安が残った
今 新宿西口は
松本零士の描いた
ビル群そのものになったけれど
建築基準法に基づいて
建てられているので
ビルとビルとの間に空間が保たれている
だから
基本的にお日様はあたっている